国家の罠 佐藤優 新潮社 2007

佐藤優による国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫 さ 62-1)

まるで小説のように、読ませる一冊でした。自分の国である日本を舞台にして、一時期騒がれていた問題を別の視点から見ることができたのはもちろんのこと、外交に関して、日本の政治報道に関して、恣意的な「国策捜査」に関して、今まで知らなかったことが見えて来ました。

鈴木宗男のニュースがメディアで話されていた時には、全く見えていなかった点が目の前に現れます。この当時者佐藤氏による見方も、事件の見方の一つにすぎないのですが、報道や佐藤氏本人の見方に惑わされずに多面的に事件を考察する必要性を感じさせるのは、佐藤氏の執筆力によるものなのでしょう。鈴木宗男はテレビに登場したときには既に悪者にされており(そのマスコミの報道に、私は疑問も挟まなかった訳ですが。。。)、悪者面しているなぁ、と正直思ったものでした。その後、あれだけ取り上げられていた人が、何故国会に返り咲くことができたのか、不思議に思っていましたが、それだけの盤石な基盤と応援を取り付けるだけの力があるようです。そのほかにも、何の強い印象もなかった小渕総理が生き生きとした人間に見えて来たり、日本の救世主のように思えた田中眞紀子に対する厳しい評価を知ったりと、目から鱗の一冊でした。

それにしても、とても読ませるのがうまい方です。小難しい外交の話も解りやすく書かれていますが、そればかりに留まらず、東京拘置所が3畳ほどのスペースであるとか、座布団があるかないかで居心地が全く違うとか、配給の食事は、自己負担のお弁当より美味しいとか。まじめに、おかしな話をしているところが、微笑ましく感じます。

読み終わり、しばらくは本の中の世界にいたのですが、福田首相がニュースにあらわれ目が覚めました。色がなく平坦に見えた政治界にも、血の通った人間がおり、福田首相の裏にも、佐藤氏のような人物がいる、と思うと、日本の政治が面白く見えてきます。

佐藤氏が、まだ外交官として活躍していたら、どうなっていただろう、と思うと、外交から退いてしまっている現状が残念に思えます。ただ、その場合には、私が知り得なかったことも沢山あるのですよね。