澤口俊之 幼児教育と脳 文藝春秋 1999


澤口俊之氏の論については、激しい提案がされているせいか、賛否両論のようである。しかしながら、この幼児教育と脳 (文春新書)は、示唆に富む内容が記されており、一読に値すると考えている。

感覚的に必要だと思われる、両親とのふれあいや、乳児期の社会性等の重要性を述べており、興味深い。

p48 「性格要因」の数や内容に関しては諸説あるが、最も少なく見積もって三つの主要な要因がある。「外向・内向性」と「神経質さ」、そして「衝動性」である。これらの要因は互いに独立している(つまり互いに無関係)。...これらの要因のどれもが遺伝性が強い。...少なくとも、三十−四十%、データによっては、六十-八十%は、遺伝によるのである。
p121 多重知性には少なくとも八つの知性と一つの超知性がある。すなわち、言語的知性、絵画的知性、空間的知性、論理数学的知性、音楽的知性、身体運動的知性、社会的知性、そして感情的知性が八大知性で、自我(スーパーバイザー)が、それら知性を統合しコントロールする超知性である。

p150 私たちの知性は多重しているので、幼児教育の「基本」は多重知性の各々をまんべんなく育てることにある。そのためには適切な環境が重要だが、多重知性の各々によってその環境は異なっている。したがって、多様で豊かな環境を用意することが大切だ。
この「基本」とはそう反する可能性もあるが、特定の知性を英才教育で伸ばすことも考えるべきだろう。ただ「基本」を押さえながら、英才教育をすることもできるので、[基本+英才教育]が理想的な幼児脳教育になるといってよい。
英才教育のポイントはいくつかあるが、まずは幼児の得意とする知性を見つけることだ。知性は遺伝するので、両親の得意とする知性が何かを押さえることで、みつけやすくなる。もっと良いのは、用事の好奇心を育み、自分でじぶんの得意で好きな知性を見つけさせることだ。そのためにも多様な環境が大切になる。

p210 力学で有名な命題として、二体問題は簡単に解けるが三体問題をとくことは不可能ということがある。つまり、互いに引力を及ぼし合う二tの物体の動向.運動様式は解けるが、三体になるとあまりに複雑過ぎて解析的には解けないという命題である。一人っ子は論外として、子供が二人から三人になることによって「子供関係」の複雑さは飛躍的に上昇する
。これは「普通の環境」を家庭会いで作るうえでポイントとなることだ。「最低三人」というのは、そのためである。

p211 父親の本質的な役割は家庭内での秩序を作り、そして社会のルールと規範、価値観・倫理感を子供達に植え付けることだ。...ともあれ、子供たちに社会的公理を共有させるには「話し合い」など一切不要であり、特に父親の力量が多いに問われることは確かなのだ。