The crime, 2007

The Crimeは、ナチスの台頭が目立ち始めたオーストリアを舞台とした裁判もの。こう聞くと、単純なストーリと、思ってしまうかもしれないけれど、中心に描かれるのがユダヤ人家族であるという設定がひねりを与えている。舞台となった時期は、ユダヤ人が悪意を持って見られるようになった頃で、裁判は、意図的にユダヤ人に不利になるように遂行された初のケースといわれる。

簡単にプロットを説明すると、仲の良くないユダヤ人の父子が、山岳ハイキングに行くのだけれど、心臓に疾患のある父親は、発作が原因で誤って崖を滑り落ちてしまう。息子が助けを呼びに行く間に、父親は死亡し、息子には殺人容疑がかけられる。

本来ならば、裁判は、事実に基づき議論し、真実をつまびらかにし、正当な判決が下されることがように行なわれるべきもの。でも、社会情勢やその時の空気によって、いかに簡単に判断が曲げられてしまうことか。その時の正義は、そのトキが決めるとでもいえようか、The Crimeは、そんな時代の空気を鋭く描いている。検察側の弁護士は、裁判がいかにも見えない力によって流されていることに気づくのだが、自身のアンビバレントな心理を如実に表現しているのが興味深い。同時に、少年も弁護士も裁判の流れていく方向性を変えることができず、そのことを理解している。

史実を元に描かれた映画で、主人公の少年はその後アメリカに渡り、アメリカの雑誌LIFEの専属カメラマンとして名を残すことになる。その場面はわずかにしか描かれないけれど、戦争が大きく変えた彼の人生を思わずにはいられない。