村上龍,人生における成功者の定義と条件,日本放送出版協会,2004.

人生における成功者の定義と条件は、最近「村上春樹」氏をもう少し理解したいという気になって本屋をぶらぶらしていた時に見つけた本。これは、春樹ではなく龍著なのですが、常々、「成功とは何か幸せとは何か」は、今後、重要になってくる視点であると考えていたため、目に留まり手に取ったもの。著名人5人との対話形式で進められる本著は、少し立ち止まり再度人生設計をするには、非常に良いとっかかりとなると思います。
限りなく透明に近いブルー (講談社文庫 む 3-1)で受けるような村上龍の印象とは異なり、また、執筆作品の裏に流れる村上龍氏の思想や人生への真剣に対峙する姿勢が対話にはあふれ、小説への関心も喚起するものです。

村上: 高度成長時代までの成功者と今の成功者とは違うということが伝わればいい。今成功するというのは、偉くなることではないし、有名になることでもないし、お金持ちになることでもない。
中田: 要は自分が何をしたいか、でしょう。

嫌なことをしない、好きなことを探す

5人の対談からは、言葉は異なりますが同様の真理が見えてきます。それは、人生において自分がやりたいことを探し、エネルギーを分散させず(p94)注力して取り組むことが成功の条件であるということ。それができた人は、少なくとも自分で満足できる成功者となりうるということです。

嫌なことをしないという例では、利根川進氏が、京都大学の研究室がすごく汚くて嫌だったので、京大で研究しない道を選んだ(p108)、というくだりは話としても非常に興味深いものです。

問題を見つければ解決したも同じ

また、5氏が共通して言っていることのひとつに、問題を見つける能力、というのがあります。今後、人が立ち向かうのは、問題が複雑に入り組んだ課題であるといいます。答えがない問題に対処するには、まず、どのように課題設定をするかが重要になってきます。
このような課題設定は、日本では無用の長物と言われがちな博士課程で訓練される能力の一つ。世界の舞台で活躍する多くの政治家、ビジネス界のリーダーが博士課程を持つようになっている理由は、ここにあります。多くの教師に、もっと学習する機会を与えようという利根川氏の提案やもっと指導者に博士をと考える猪口氏の提案が生まれる理由は、ここにあります。

秀才は成功しにくい

人間は自分の生きている環境に洗脳されて生きています。そのため、通常、環境をがらっと変えるのは非常に困難です。秀才は、下手に頭が切れてしまうので、ほかの可能性を考えたり失敗を恐れたりして、チャンスを逃すことになるといいます。或る意味、成功者は、めげずくじけず、柔軟に対応することができる人であることが多いそうで、つまりは、いわゆる学校秀才が、人生に成功(自分で満足のいく人生を送れること)するとは限らないと理解しておくべきです。学校で落ちこぼれであっても、打たれ強く、自分をささげられるような対象がある人は、長い人生において、「成功」するのかもしれません。

そのほか、気になった言葉

グローバル化は人々が力強いアイデンティティを持てば持つほど強化されると思います。...違いをして学ぶ、成長と同時に学び、成長することによって自らのアイデンティティを維持し、強化する。カルロスゴーンp148.

世界から見たら、やはり日本は経済国家というよりも軍縮のリーダーシップをとるべき国なんですよ。...世界から見たら、やはり広島・長崎を経験した国なんだから軍縮の旗手であるべき...。それが日本に期待されている役割であり、世界が抱いているイメージなのだから、そこをやはり大事にして、自国の市民社会にも、それから世界にも発信していく必要があると思うんです。猪口p206

一筋の光のようなもので、全体をあまねく照らすような光には到底ならないんだけれど、闇が見えるから光が見えるということは、やはりあると思うんですよ。猪口p223