ジェームズ・J・ヘックマン, 幼児教育の経済学, 東洋経済新報社, 2015

幼児教育の経済学は、最近の私のテーマでもある乳児、幼児教育に関して、より明確な指針を与えてくれるのではないかと思い購入したもの。特に書評などを確認せずに購入した。

 帯に記載されていたように、就学前の情操教育の必要性について、学術的実験データに基づいて述べられているもので、 「すなわち、社会政策は適応性のある年少期を対象にすべきだ」という主張である。

扱われる内容は、個人的に特に目新しいものではなかったかったが、長期的な社会学的調査に基づいているという点、「ノーベル賞受賞者」が、米国が公共政策として導入すべきプログラムを社会学的データに基づき提案しているという点で評価されるのだろう。

描かれる内容は、私の居住国であるデンマークの就学前教育の利点を示しているようにも思える。社会性の高い、つまり、協調性を持ち、自立した子供を、集団の中で育てるという意味において、6ヶ月から1歳という早い時点で、社会の中(保育園、幼稚園)に入れ、IQ教育ではなく情操教育を行い(自然に触れさせる「もりの幼稚園」など)、さらに、家族との時間もきちんと持たせる、という点だ。

主張は良い。だが、残念なことに、「ノーベル賞経済学者」という売りだけで、構成された書籍のように思える。本書籍の構成としては、論文、反論、反論に対する返答という3構成であるのだが、反論が非建設的なコメントばかりで驚かされた。成人教育が不必要だと言っている訳ではなく、幼児教育の必要性を述べている論文に対し、わざわざ比較して成人教育も重要であると述べるなど、政策に成人教育にも予算配分されるために、述べているとしか思えない批判が続く。このような構成で日本語版書籍を販売する意味があるのかよく分からない。

明らかに読者は米国人を想定しており、日本版への配慮は、解説のみである。多くの例が米国の社会状況に基づいており、日本読者で米国の知識がない者へはミスリーディングをも招きかねないと思われる。単なる翻訳にすぎないのならば、わざわざ日本語版を出す意味は、同分野の日本研究者が英語文献を読む手間を省くぐらいだろうか。英語で読んだ方が良さそうだ。