生涯投資家, 村上世彰. 株式会社 文藝春秋, 2017

生涯投資家は、とても良い本に巡り会えたと嬉しくなった本。多くの人に勧めたい。

 偶然、読んだオンラインの対談記事で「村上」という人が、投資教育についてとても興味深く示唆に富むことを言っていた。読み進めるうちに、この「村上」という非常にバランスが取れた意見を言い、日本をもっとよくしていくために、多くの人がお金で悲しい思いをしないようにと強い信念を持って投資教育に取り組んでいる人が、あの一時期メデイアを騒がせた「村上ファンド」の人だとわかった時の衝撃は、相当なものだった。同時に、背景も何も知らないまま、金融の知識のない私が、ハゲタカだとか金の亡者だとかのイメージを持っていたことに、申し訳なさでいっぱいになった。

「マネーという名の犬」や「今君に伝えたいお金の話」を読んだ時の感動が、本書を読み終えた後にも体を襲ったばかりか、感動で涙が出てきて、何だこれはと自分でも呆気にとられてしまった。

3つの理由で本書を勧めたい。

一つは、会社のあり方と投資家のあり方についての一つの入門書になっていること。

投資家としての自分の信念とその理由を明確に述べており、投資家という人たちが何をする人なのか、一例に過ぎないとしても理解の一助になった。そして、特に意図したわけではないのだろうが、村上氏の投資家としての信念や自分に課しているルールが一貫しているがゆえに、それぞれの関わってきた有名な案件で私にとっては不可解でしかなかった具体的な判断理由が腑に落ちる。村上氏は、どのようなところを見て、どのような判断を下しているのか、という普通だったら目に見えない部分がとても上手に解説されているのだ。

私は、「会社は株主のものである」という考え方が長い間理解できなかった。ただ、株主は、会社を見込んで投資をする人であり、だからこそ口出しをして企業に不正が起こらないように監視し、事業の成長を助ける役割があるということはわかった気がする。そして対する会社側は、コーポレート・ガバナンスを充実させ、適度に投資家にリターンを返して、自身でも新しい事業に投資を行い、社会におけるお金の循環に貢献することが重要である。同時に、会社は社会の公器としての立場もあり、単なるお金儲け投機を防ぐための方法が必要なのではないかと言う考えは捨てきれていない。この点に関しては、もっと勉強したい。

二つ目には、おそらく悪いイメージだらけだろう村上氏のイメージが変わるかもしれないから。日本のメディアや広告業界はメディアの役割を全く果たしてない。本を読むと一個人に対するメディアの攻撃がどれほど悪質であるかがよくわかる。(私もだけれども)本人の買収の意図を理解せず、金融に対する知識が全くない人たちが、自分の不勉強をさておき、いっぱしのメディア人を気取って報道していたように思える。

三つ目には、自分も何かできないだろうかと思えるようになる、モチベーションを掻き立てられる本だから。

でも、不満も2つある。

北欧に住んでいる身として、大企業であるがゆえに社会的な意義を考えながらビジネスを進める欧州企業に非常に共鳴している。本書では、米国を先達とする見方が多々出てくるが、村上氏はその年代の人に顕著なように米国偏重にも思える。欧州企業を見ていると、やはり米国の企業は悪どいビジネスをしているように思えてならないから。

数に関する感覚が優れているわけではない私は、村上氏のITには投資しないと言っているのと同じ理由で、投資家にはなれない気がする。とても興味深い分野を知ったのに、自分には向いてなさそうで、それが悲しくて仕方ない。