資本の世界史, ウルリケ・ヘルマン, 太田出版, 2015.

ドイツ発ベストセラーの資本主義を考えるための必読書、という帯に興味惹かれ手に取って読んでみた。経済や金融をもっと理解したいけれどもどこから手をつけたらいいのかわからないという人に教科書としておすすめしたい。

経済や金融に関しては、今までわからないと敬遠していたのだが、非常に良書だった。より専門的になる後半は、正直言ってかなり読むのが困難だったけれども、折に触れて「新しい金融の発明と考えられがちなことが実は昔のバビロンの時代にも行われていた」とか興味深く身近に感じられる出来事が紹介され、今の生活との接点が述べられていて、内容が専門的な点があったものの読了することができた。

資本の基本を歴史を紐解き今につながる軌跡を描くことで説明し、さらに独自の視点で現在の金融の仕組みや金融危機を説明する。数百年の概略をざっと説明している、良い入門書、教科書とも言える。

中でも賃金の高いデンマークに住んでいる身として「人件費が高かったから産業革命が達成された」との説明や解説に、頷くところも多い。つまり、「イギリスは人件費が高いから、オートメーションが進むだけのニーズがあり産業革命が達成された」とするならば、デンマークがIT化を他国に先んじて進められたのは、デンマークの人件費が高く人件費を削減するだけのニーズがあったからと説明できる。

そして、賃金を低く守り続け、富裕層を潤わせているように見える日本は、巡り巡って産業支援や育成につながらず、自分の首を絞めることになる。 多くの事例はドイツのものであり、同様の良書が日本の経済学者からも生まれてくることを願う。

p46高い賃金を守りあっている豊かなイングランドだからこそ、生産性を上げる計算をしなくてはならないのです。そしてそのことが一段とイギリス人を豊かにさせたのです。…低賃金のドイツでは機械を投入するだけの価値がなかったのです。

p48 ヨーロッパがグローバルな競争に勝ち抜く力を保つためにも、賃金は下がらなくてはならないという主張がこれまで何度も叫ばれ、今も叫ばれています。でもそれは歴史が示すように誤解です。資本主義を駆動するのは低い賃金ではなく、高い賃金なのです。労働力が高い時にこそ、生産性をあげ、それによって成長を生み出そうとする技術的イノベーションの出番なのです。