大島清.男の脳は欠陥脳だった.新講社.1999.

ハッとさせられるタイトル「男の脳は欠陥脳だった」は、正直ミスリーディングだと思う。筆者が伝えたいのは、脳の働きには違いがあり、男は従来「男脳」の働きが強く、女性は「女脳」の働きが強いといっているに過ぎないからだ。男脳と女脳という分け方で、それぞれの特徴を説明しているが、男性が女脳優勢の脳を持っていることもあれば逆もありうるということで、つまりは女性が男脳優勢になるう場合もある。

著者の大島氏が提案としてあげている女脳を活用させた社会は、まるで今の北欧の社会をみてきたかのような内容だ。大島氏によると、女脳は、自然や環境を大切にし、共生を求め、異文化は対立するものではなく互いに認め合うものと考える。だからこそ、今後は「女脳」を社会で活用させる方法を考えるべきだということだ。この論を現在の北欧の社会に当てはめてみると、女性の社会進出が進む北欧社会は、女脳が活躍したからこそ形作られてきて、世界に先んじて自然や環境を大切にする社会と産業を推し進めてきたとも言えるのではないか。今の北欧社会を大島教授に是非とも見て評価してほしいものだ。

初版が90年代だということだが、果たして、日本ではこの本はどのように受け取られ、さらに、30年間で何か変化したのだろうか。とても悩ましい。

特に気になった視点

男と女の違いは、差別ではなく区別である。「違う」ということは納得できても、身体的特徴だけではなく、脳も視覚的にも違うということはとても興味深い発見だった。例えば、右脳と左脳をつなぐ脳梁は男性は細い傾向があり女性は太い傾向があるのだとのこと。細い人は右脳と左脳とのコミュニケーションがうまくいかず、猪突猛進になりがち。このように脳の形状は、見た目でも違うのだから、「違い」を見ないことにするのはどうか。
48 男脳の第一の特徴は元来は右脳優位だが、もう1つ女脳とは明らかに違う時がある。それは脳梁が細いと言うことだ。
51 男は女より左右の脳に隔たりがあると書いたが、それはキャパシティー容量がないことでもあるし、柔軟性がないことでもある。1つのことを1つの脳で処理しようとすれば、どうしても融通が利かなくなってしまう。そのかわり、集中力が生まれる。雑念を振り払って目標に向かうことができる。私の脳が分担しなくて済めば効率は良いからだ。
女脳が社会で活躍するようになったらどうなるだろうか。筆者は、安全、安心な環境に配慮し包みこむ社会が創られるという。女脳は、自然や環境を大切にし、対立ではなく共生を求めるからだ。女脳を大切にすることで、社会のリズムを妊娠出産のリズムに合わせるのことにもなり、それは良いことだという主張も秀逸だ。北欧で生活していると、社会が子供中心にできていることを感じるが、その一つとして、妊娠出産が女性にとって負荷にならない社会構造になっていることに気づく。社会のリズムを女脳に基づいて作り上げている良い例に思える。
159妊娠・出産の動画時代をリードしても構わないだろう。なんとなれば、妊娠・出産のリズムを世の中のリズムにしてしまえば良いのだ。
世の中のリズムを女性に合ったものにする。生き急ぐ男脳が性急な社会のリズムを作ってしまったように、女の方が緩急自在のリズムを作っても7不公平では無いはずだ。世の中には男と女は半分ずついる。
161女脳がリードする時代と言うのは、必然的に大脳辺緑型がリードする時代になる。…想像の脳でやる前頭葉は辺緑系と直接に結びついている。五感を取り研ぎすます事は新皮質を満足させることでもある。
男脳は人間の基本的な欲求を踏みにじってまで承認の欲求を満たそうとする。出世のために家族を顧みない、危険な賭けに出る、無理を重ねて体を壊す、こんな男ならいくらでもいる。つまり新皮質の要求を見せ欲求を満たすためにときには辺緑型の声に目をつぶってしまう。
もし女脳が時代をリードすればどうなるか?…まず何より辺緑系かつ基本的な欲求を満たすことから始めようとするだろう。それは言うまでもなく、健康と安全になる。
進歩は足踏みしても健康と安全、そして環境だけは守られる。そのことで人間の脳が満足できるなら、現代文明は今までとは違った世界を目指すことができたはずなのだ。
172どうして政治はわかりにくいの…政治と言うのは社会の方向付けをする作業であって、こんな大事なことが意味不明と言うのは断じておかしい。…では女のにとってわかりやすい政治とは何か?未来ではなく今この現実を明日には変えてくれる政治だ。…事故や犯罪がなくなって子供が安心して遊べる1日になってくれた方が良い。つまり立法より行政が大事だ。打てば響くような反応が欲しい。…
195 男脳が作り上げてしまった社会は、子供の存在と言うのを根本で軽んじる。
巡り巡って男女の違いも考えさせられた。人の行動は、多くが脳や遺伝の力に影響を受け自分ではどうしようもないこともあると考えると、相手に対してちょっと優しい気持ちが持てる気がする。得意とすることが異なる人がいて初めて社会が成り立つのだなと、自分の不得手なことに考えを巡らせてみたりした。
98男脳は分析を好み、女脳は直感を大大事にすると書いた。直感は少しも分析的ではなく、まさに好き嫌いの一瞬の判断となる。それと同時に女脳はアナロジー類比を得意とする脳でもある。「男はアナリシス分析女はアナロジーの動物」と言う言葉があるが、初めて出会った世界や人物や人物に対して女脳はこれまでの経験を持ち出して類比する。
144女脳はトカゲの脳がつよい。何よりもまず、生理的な欲求が満たされるの望。たくましく生きられて初めて、その次の段階に住もうとする。…例えばセックスだ。夫とのセックスに不満や物足りなさを感じる妻は、ドレスや宝石をどんなに買い集めても根本の不満を消し去ることはできない。
そして、「主婦」ではなくて、社会で承認されたりと思う自分は、女脳が弱くなってしまった女なのだろうかと悩ましく思ったりもする。

234 主婦は断じて職業ではなく、女脳がごく自然に求める生き方に他ならない。