ミラーニューロンの発見、マルコ・イアコボーニ、ハヤカワ新書Juice、2009

ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)では、2000年あたりから活発になってきたミラーニューロンといわれる神経細胞の動きについて、第一線の科学者が解説してくれています。久々に、時間がかかったけれど、それだけのモノはあった、という印象です。ぜひ、ニューロンに興味を持っている人、子供を育てている人に読んでもらいたい!「ミラーニューロン」とは何か、訳者が纏めた一文を下記に引用します。

自分がある行動をしているときに活性化するニューロンでありながら、その行動を他者がしているのを見ているときにも同じように活性化するニューロン

私がこのミラーニューロンの発見が興味深いと思ったのには、二つの理由があります。一つは、私の関心事である「異文化コミュニケーション」に示唆を与えてくれるから、二つ目には、人の発達に大きく関る神経細胞であるために、現在1歳になる子供を持つ身として、知っておくことで子供の成長の助けになると思われたからです。そればかりでなく、即物的ですけれど、3点目として、いかにしてなりたい自分になるかという疑問への答えなども見つけられる非常に示唆に富んだ一冊です。

ミラーニューロンの発見の何がすごいのか

この3点に沿って、ミラーニューロンの発見の何がすごいのか、考えてみたいと思います。
1.なぜ他人を理解できるのかというコミュニケーションの問題を哲学や推論からではなく神経細胞の動きによって解明できると考えられるため。
人々の間で考えが共有される(間主観性)のは、人がミラーリングとシュミレーションの神経機構を使って、他人の心にアクセスできるからと説明されます。つまり、人は他人と感情的なつながりを感じられるために、模倣が可能で、他人を理解できるのだと考えられます。よって、他人を真似することが困難な異文化コミュニケーションの状況では、他人の心へのアクセスにも障害が発生すると考えられます。

2.他人と感情的なつながりを感じ模倣することで人は発達していく。
社会不適応や自閉症者は、模倣能力に問題が見られるケースが多く見られるということで、模倣を促進させること(物まね遊びなど)が、解決策として提案されています。
ここから私が考えたのは、小さな子供がいる家庭では、子供につきあっておしゃべりをすること、ごっこ遊びに付き合ってあげることを意識して行うのが良いのではないかということです。子供が笑ったら笑ってあげる、手を振ったら振ってあげる、ということが、模倣を誘発し、ひいては社会性を養うことに有効なのではないかということです。

3.模倣することで人は変わる。
一緒にいる人の行動が似てきたり、同じ行動をし始めたりすることは、日常生活でもよく感じることでしょうが、本文の極端な例を挙げると「大学教授のことを考えると賢くなり、サッカーフーリガンのことを考えるだけでアホになる!」んだそうです。同様に、残酷なメディア情報に触れていたり、暴力的TVゲームをプレイすることは暴力行動につながるし、中傷広告に触れ続けることで、対象との感情的断絶が生じてくるといいます。

本文には書いてないのだけれど、あくびが移るとか、男性もつわりを感じるとかもミラーニューロンの影響かも。

最後にメモとして、ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)で気になった点を一つ。

言葉に書くことがいいといわれているけれど、言葉にすることで、思考が凝固してしまうこともある。