ダグラス・C. メリル, グーグル時代の情報整理術, ハヤカワ新書juice , 2009

グーグル時代の情報整理術 (ハヤカワ新書juice)は、昔書評を読んで面白そうだったので購入し、本棚に入れっぱなしになっていたもの。何となく取り出して読んでみたのだけれど、整理術の新しい視点を発見した気分です。

是非読んでほしい理由

現代社会では、現代の日常に不適切な時間配分が強制されるために人々は毎日過ごしている。そのために毎日の生活に負荷がかかるということを解説した上で、身の回りの情報をどう整理するか、仕事やプライベートとどう向き合うか、脳のストレスをどう軽減するかといった提案が中心。人生を整理するための術ともいえる。
何よりも、押し付けずに、自分の整理法を参考にし自分に最適な整理法を見つけて欲しいという著者の心意気がすばらしい。整理法の裏にある理由を懇切丁寧に解説しているので、仮に著者のアドバイスにピンと来なくても、ストレスを軽減するために何をすれば良いのかという根源の部分を理解していれば良いといえ、そのような点でも最適。
筆者がなぜ整理術などに関心を持つようになったか、という一節が、心にしみる。整理術の本を読んで、涙が出てくるってどういうことだろう。

真の整理術とは何だろうか。それは、危機が発生しても、今を生きる力が残っているということだ。それができれば、未来を完璧に予言し、それに完璧に備えることに無駄な時間や心のエネルギーを注がなくて済む。そんなことは不可能だからだ。取り越し苦労で自分に緊張やストレスを強いることほど、無駄なことはない。起こりうる出来事など、無限にあるのだから。

整理術から人生を考えるという切り口では、佐藤可士和の超整理術にも通じるところがある。こちらも必読。

田村次朗、一色雅彦、隅田浩司, 交渉学入門, 日本経済新聞出版社, 2007.

交渉学入門は、交渉学が協調作業支援につながると考え興味をもつようになったことから、入門書として手に入れたもの。ただ、交渉学という方法論の話ではなく、交渉術の話に終始しており、予想と大幅にずれた。

薦めない理由

物語と実践的なアドバイスにより構成されていて一見読みやすい印象を受ける。交渉においてどう行動すればいいかという指南が書かれており、明日から使いたい人には良いのかもしれない。ただ、私は薦めません。その理由は次。

  • 小手先のテクニックに終始している。ホワイトボードを使おう、相互理解が大事など。
  • 具体的な例が多数出ている割には全体的に曖昧な表現が使われている。
  • 理論的背景が松浦正浩氏の実践!交渉学に比べ稚拙。

交渉学(方法論)入門書としては、交渉学の基本的な考え方、方法、社会的意義が議論されている松浦正浩氏の実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)をお薦めします。

安井秀行,自治体Webサイトはなぜ使いにくいのか, 時事通信社, 2009.

著者である安井秀行氏にお会いする機会があり、アスコエの活動を聞き、自治体Webサイトはなぜ使いにくいのか?―“ユニバーサルメニュー”による電子自治体・電子政府の新しい情報発信に関心を持ちました。

アスコエは、遅々として進まない日本の電子政府の取り組みを、民間から変えることになるかもしれない「ユニバーサル・メニュー」を使った自治体の情報化を提唱しています。本書は、地方自治体の情報化における課題や、アスコエで行っている「ユニバーサルメニュー」の試みを具体的に、かつ実践的に描いています。特に自治体の情報担当者ばかりでなく、情報担当者の予算を握る方たちにも読んでもらいたい一冊です。

なぜこの本を薦めるか

自治体サイトの課題として、下記の2点が挙げられています。

  • 情報報が探せない
  • 情報を理解できない

更に、背景にある課題として下記の3点が挙げられています。

  • マーケティング視点が欠けていること
  • 自治体組織構造の課題
  • ユーザビリティ視点の欠如

日本の電子行政というと、セキュリティなど技術の話やどのような機能が付帯しているかという議論になりがちですが、実際は、行政がするべき情報の集積地としての役割が果たされていないことが現状の課題であるということがわかります。個人情報を扱う情報群は、個人情報保護の問題などに十分配慮した対策が求められますから、導入が遅くなっても仕方のないこと。実際に電子政府進展度が高いと言われるデンマークにおいても、全ての個人情報関連がオンラインで機能しているわけではないことを考えると、今、日本の電子行政においてやるべきことは、下記の2点に集約されると思われます。

  • 現状の認識

― 電子化の目的(日本独特の理由でも構わない)

電子行背にかかわる者でなくても、現状がどのようになっているのか、何が本質的な課題なのか、では、どのような電子政府(電子行政サービス)が欲しいのかを考えるきっかけになるという意味で、本書を薦めたいと思います。

バイラル・ループ-あっという間の急成長にはワケがある

バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある
は、現在の社会におけるソーシャルネットワーク(SNS)が、いかに社会に大きな影響を与えられる力を秘めているかを示しています。ソーシャルメディアは、既得権を享受するメディア産業を壊す力を秘めているという点で、意見のある若者には必読の書。

なぜ必読書か

感染の連鎖と訳されるバイラル・ループ、その本質は、

ある一人の人間によって検索・収集された情報が、その人間のソーシャルグラフに基づいてあちこちにばらまかれ、そしてそれによって水面に投げ込まれた石が波紋を広げていくような形で多方面へ広がっていく...

ことにある。

情報過多の現在、ある信頼のおける個人が情報や現象を取捨選択し意味づけをする「キュレーター」としての役割を持てるのであれば、このような個人は、現在のメディアに取って変わられることが予想される。私も、ちょっと考えてみるだけでも、面白い本を知っている人、面白いイベントを毎回探してくるなどのような女友達なんかの「個人」が、数人は思い浮かびます。旅行に行くのだって、レストランに行くのだって、もちろん雑誌も参考にするけれど、憧れの姉さんが良いというレストランなら☆がなくても行ってみたいと思う。知っている人じゃなかったとしても、(おバカなセレブなんかじゃなくて)そんな憧れのネットで知り合った人は沢山います。
そんな信頼のおける個人のフィルターに残った情報ソースを使った方が、資金繰り、親会社の関係、後援などの多くの縛りにあっているのが明白で、本来の役割を忘れているんじゃないって思わされるメディアよりも信頼できると考えても、不思議じゃないのです。

そのバイラル・ループの本質を知っているのと知らないのとでは、これからの情報選択も、情報流通もままならない、だからこそ、一読を薦めます。


湯川史樹, 命のしずく, 文芸社, 2010.

大学の時のサークルの先輩である湯川史樹のデビュー作。命のしずく A drop of soulは、湯川史樹を知る者には自伝的小説として、ワイン好きにはワインの奥深さと人生の大切さを伝える小説として、良い読み物に仕上がっている。

東京には、「変幻自在」という湯川史樹のレストラン・バーがあり、興味を持った方は作家と触れ合うチャンスも。

田村裕, ホームレス中学生, ワニブックス, 2007.

ホームレス中学生は、本のタイトルは聞いたことがあり、ちょっと読んでみようかなー、ぐらいの軽い気持ちで手に取った本。

良く、ぐれずに芸人になったな、と感心するとともに、母親を大切にしようと思わされました。

吉武信彦,日本人は北欧から何を学んだか,新評論,2003.

日本人は北欧から何を学んだか―日本‐北欧政治関係史入門は、北欧関連本の一つとして手に取った本。本書籍は、2003年出版であるが、第二次世界大戦以前から、いかに北欧への評価が極端に揺れて何度もこの揺れが繰り返されていたかということがよくわかる。2000年前半数年で見られていた北欧諸国への賛美から一転、2010年冬には、ここ数年続いていた世界一幸福な国デンマークといったような北欧諸国の美しい一面を伝えるばかりでなく、現在の課題や数々の社会問題の進展や新政策を伝える書籍が相次いで発表されている。大きな日本北欧関連史の枠組みで見れば、今は「批判」側に揺れているときと見ることもできるだろう。

個人的には、著者ばかりでなく、近年は北欧の現実をバランスよく伝えることのできる若手研究者が出てきていると思う。今後は、時代の要請による一面的な北欧ではない面も伝えられていくようになるだろう。その意味でも、著者吉武氏の今までの貢献は大きい。

...この傾向は、1980年末以降、特に顕著になったように思われる。しかし、日本北欧の関係はこれが初めてではない。...

なぜ極端なイメージが跋扈したのか

興味深かったのは、第二次世界大戦前からの傾向として、北欧のどのような点を伝達したいかという意図、何に使いたいかという目的によって、伝達される北欧像が異なったという「歴史」的背景である。著者の言葉を借りれば、「ある一部がその時代の要請により注目された(p173)」のである。

小国と言えども、国。文化、経済、政策といった切り口の違いによって、様々な顔が見えて当然だが、今までは、どの場合も「北欧≒XXX」といったように一側面を見てすべてを語れるかのように伝えられてきた。例えば、「平和国家」「デザインの国」「環境先進国」といったように。このようなステレオタイプ化、便利であると同時に、多様性を排除しており非常に危険である。

..日本では、北欧についてのどかな平和国家というイメージが流布する一方で、外交上きわめて重要な拠点としてのイメージも存在したのである。前者は、北欧に対する情報不足を背景に知識人を中心に一般国民が素朴にもっていたイメージであり、北欧への憧れを著上するきっかけとなった。それに対して後者は、日本政府、軍部という一部の政策決定者が外交政策の遂行という現実の要請に迫られて北欧を舞台に活動する中でつくられたイメージであったということができよう。そのため、この二つのイメージは相互に影響しあうことはなく、それぞれの側において独自に発展を遂げた。北欧に対するこうした両極端なイメージは、第二次世界大戦後も形をかけつつ繰り返し現れることになる。(p54)

また、声の大きな人が描く北欧のイメージが、北欧の一般的なイメージとして定着するケースも多い。そのような傾向は、現在に至るまで健在だが。

...作家の五木寛之が、..次々に発表した小説(白夜物語―五木寛之北欧小説集 (角川文庫―五木寛之自選文庫 小説シリーズ)など)も、..若者を放浪に駆り立てた面があったと思われる。...その後帰国した彼らは、北欧の「豊かな社会」という側面を日本に伝えると同時に、「フリー・セックス」の国というイメージも持ち帰ることになった。そして、これらのイメージは、この時期以降日本人の間に根強く残ることとなった。