永井紗耶子, 帝都東京華族少女, 幻冬舎文庫, 2015.

帝都東京華族少女 (幻冬舎文庫) は、著者が高校時代の友人であったことから、ちょっと読んでみようかなという軽い気持ちで読み始めた。

結果、良かった!読み物として秀逸。手にとって読んでみて損はない。知り合いだから高く評価したいのかなって自分でも考えてみたけれども、そうではない。本当に良かった。

 舞台は、近代東京。まだ華族の優雅な生活や、旧幕府軍や近代日本設立の立役者なんかの記憶がカラフルに見られる頃。おてんばな華族の女性主人公が、書生と一緒に問題解決をするというのが筋書きなんだけれども、その背景の社会模様、人間関係、そして、当時の女性の生き方なんかが、生き生きと描かれていて、まるで映画を見ているようだった。しばらくその時代に入り込んでしまって、現実の生活が逆に物語に思えることってないだろうか。久しぶりにそんな感覚を味わった。

そして、 なによりもそれほど知られていない近代東京の社会や社交が面白い。今の日本につながる文化なんだけれども、全く類似点がないところもあれば、今の社会に関連を感じさせるところがある。フィクションではあるのだろうが、歴史小説としても面白いと思った。

どのあたりがオススメか?

1. 日本の知られていない近代について知ることができる。

前述のように、私たちは、日本の歴史特に近代・現代の歴史をそれほど知らない。近代・現代の歴史は、今の日本の姿に直接つながる事項がたくさんあるのに、私たちはそのことをよく知らない。物語の力は強い。単なる歴史記述を読むだけでは知り得ない感情や空気感を、物語であることで私たち個人の感覚に埋め込み、より深い印象、余韻を我々に残してくれる。この書籍のおかげで、近代日本、特に華族の結婚や慎ましい生活なんかが、気になるようになった。

2.女性の生き方を考える。

代表的な登場人物に、2人の上流階級の女性がいる。華族の夢見がちな女性で敷かれたレールに沿って生きてきた人、そして、1世代後の女性で、力強く自分で自分の道をきり開こうとするこの物語の主人公。この対比が色々と考えさせられるのだ。それぞれ自分の想いに正直になって突っ走るんだけれども、運命は大きく異なる。何がこの2人を分けてしまったのだろうと、考えさせられる。

ネタバレになってしまうのだけれども、もう一つ考えさせられたのは、人生は簡単なことばかりでない、ということ。それぞれの人にそれぞれの思惑があり、自分では良い選択だと思っても、相手があることだと予定通りに行かないことは多々ある。どう考えてもある女性の失敗の選択が2つほど描かれていたのだけれども、取り返しのつかない失敗ってあるんだろうか、ということも読了後に考えさせられたことの一つ。同情や愛などの感情に突き動かされて、社会環境が全く異なる人の元に嫁ぐことは、ロマンティックではある。でも、"「こんなはずじゃなかった」と口癖のように言いながら"、の人生は送りたくないと改めて思わされた。

ちなみに、Kindleで読むことができたので、配送などの手間がなかった。Kindleは海外に欠かせない。非常に便利だ。