最相葉月 ビヨンド・エジソン-12人の博士が見つめる未来, ポプラ社,2009.

ビヨンド・エジソン―12人の博士が見つめる未来は、かつての指導教官が掲載されているのを知り、関心を持った本。研究者という道を選択した人たちの生き様にも関心があった。(該当分野では有名な方なのだろうが)一般に知られているとは限らない12人の博士を描いている。12人を1冊で紹介するのだから一人一人にさかれるページ数は非常に短く、ゆえに、少々表面的な印象しか得られないのは残念であり、最相氏が目的としていた「人はなぜ科学者になるのだろうか」という点がそれぞれの博士達の物語からは見えにくい。また、私としては、困難をいかに乗り越えたか、女性の研究者がいかに研究者生活を訴求していたか、男性研究者の影に隠れている家族の存在、などに興味があったのだが、執筆目的からも外れていたのだろう、そのような言及はほぼ見られなかったのは残念である。

しかしながら、研究者という「人」を描き、その知られざる世界観を伝えていることは非常に意味のあることと考える。大学などの研究室に所属していたり、大学運営に関っている人でなければ、知らないままの世界であると思うからだ。


それぞれの研究者人生、研究観

私が、特に気になった箇所を挙げておきます。

  • 第9章人間とコンピュータの対話をデザインする

研究者の人生というのではないが、自分の分野に関係する点として、覚えておきたいアドバイスを備忘録として残す。

コンピュータサイエンスって、人間が作ったものを勝手にサイエンスにしている分野なんです。...ですから、若い研究者には、既成事実になっていることを一歩引いたところから見て、ビジョンを持てる人になってほしいと思いますね。

この中小路久美代氏の博士論文の仕上げ方(大学の仲間に夕飯をご馳走しながら議論してもらった)も非常に参考になる。自分の博論を執筆する前に知っておきたかった方法である。また、アメリカで長期研究生活を送っていただけに、日本の研究会へのアドバイスも示唆に富む。

ここが悪い、足りない、間違っている、よさがわからない、などと批判する人は多いが、ではどうすればいいのか、と建設的な提案を行って議論を前向きに進めていこうとする人はなかなか現れない。